Aさんが最初に聞いた一言
Aさんが相談に来たのは、JAから「7月より金利が1.35%になります」という通知が届いた翌週のことでした。
42歳。地方在住の戸建て。会社員で年収600万円。妻はパートで年60万円。子どもは中学生が1人、小学生が2人。
4年前に2,700万円を30年の変動金利で借りた。借入時の金利は0.75%。それが今は1.05%、そして今年7月から1.35%になる。
着席してすぐ、Aさんはこう言いました。
「先生、正直に教えてください。
繰上返済と教育費の積立、どっちを先にすべきですか?
毎月使えるお金が限られていて、両方はできないんです。」
この質問、子育て世代の住宅ローン相談でいちばん多い悩みです。「どっちも大事」とわかっているけど、お金は有限。どちらを優先すべきか、明確な答えがほしい——その気持ちがにじんでいました。
「金利が上がると何が変わるか」を正直に見せた
まず私はAさんに、今何が起きているかを数字で見せました。
「月の返済額は変わっていませんよね。でも、その内訳が静かに変わっています。毎月の返済のうち、いくらが元本に充てられているか——確認してみましょう。」
| 金利 | 月返済額 | うち利息 | うち元本 |
|---|---|---|---|
| 0.75%(借入時) | 約83,800円 | 約14,800円 | 約69,000円 |
| 1.05%(現在) | 約83,800円 | 約20,700円 | 約63,100円 |
| 1.35%(7月から) | 約83,800円 | 約26,700円 | 約57,100円 |
「……月の返済額は同じなのに、元本の減り方がこんなに変わるんですか。」
「そうです。1.35%になると、借りた当初より毎月11,900円分、元本の減りが遅くなります。年間で約143,000円のズレです。」
Aさんは少し考えてから言いました。
「それって……完済が遅くなるってことですよね。私、68歳まで払い続けることになるんですか。」
Aさんが気づいたとおりです。4年前に38歳で30年ローンを組んだため、完済は68歳の予定。定年が60歳だとすると、退職後も8年間、ローンが続きます。
払っているのに、残高が思ったように減っていかない。
そして定年後もローンが残る——これが「変動金利1.35%時代」の現実。
「大学費用、間に合いますか?」の答え
Aさんはさらに聞きました。
「うちの子、3人いるんですけど……大学の費用、間に合いますか?
正直、今はほとんど貯められていなくて。」
子どもの年齢から逆算すると、教育費のピークはこうなります。
| Aさんの年齢 | 子どもの状況 | 年間教育費(概算) |
|---|---|---|
| 44〜46歳 | 子ども①が高校 | 約50〜120万円 |
| 47〜50歳 | 子ども①が大学+子ども②が高校 | 約150〜200万円 |
| 50〜52歳 | 子ども①大学+②高校+③中学 | 約200万円超 |
| 54〜58歳 | 子ども②③が大学 | 約100〜180万円 |
「今から毎月5万円ずつ積み立てれば、10年で600万円。NISAを活用して年利3%で運用できれば700万円近くになります。全額には足りませんが、奨学金や子どもの奨学金と組み合わせれば対応できます。『間に合わない』ではなく、今すぐ始めるかどうかの問題です。」
「……では、繰上返済はどうすれば?」
FPの結論——どっちを先にすべきか
今後3〜4年は「教育費積立」を優先。
子どもの教育費が落ち着く50代後半から「繰上返済」に切り替える。
ただし、毎年のボーナスの一部は今から繰上返済に充てる。
「どっちか一方」ではありません。時期によって優先順位を変えるのが正解です。
なぜ今は教育費積立を優先するのか
教育費には「締め切り」があります。子どもが18歳になったとき、お金がなければ進学の選択肢が狭まります。ローンは返済を遅らせても家は失いませんが、教育機会を逃すと取り返せません。
また、NISAを使えば積立額が非課税で増えます。長く積み立てるほど複利の効果が大きいため、今すぐ始めることに意味があります。
なぜボーナスは今から繰上返済に使うのか
金利が1.35%に上がると、元本の減り方が遅くなります。早い段階で残高を減らしておくと、その後の利息負担が軽くなります。月々の積立と並行して、年1回ボーナスから50万〜100万円を繰上返済に充てるだけで効果は大きく変わります。
| シナリオ | 完済年齢 | 総利息削減 |
|---|---|---|
| 繰上返済なし | 68歳 | — |
| 年50万円×5年繰上返済 | 約64歳 | 約100万円削減 |
| 年100万円×5年繰上返済 | 約61歳 | 約200万円削減 |
年100万円の繰上返済を5年続けると、完済が68歳から61歳に前倒しになります。定年の1年後には完済できる計算です。
毎月5万円をNISAで教育費積立
子ども3人分の教育費を目的別に積み立て。成長投資枠を活用してインデックス投信で運用。子どもが高校入学前までに基礎額を確保することが目標。
ボーナス年1回、50〜100万円を繰上返済
月々の返済とは別に、ボーナスから繰上返済を実施。残高を早めに減らすことで、金利上昇の影響を和らげる。完済を定年前後に前倒しするのが目標。
Aさんが決めた3つの行動
相談の最後、Aさんは表情が少し和らいでいました。
「なんか、スッキリしました。『どっちもやれ』じゃなくて、順番と時期があるんですね。ぼんやりした不安だったものが、やることリストになった感じです。」
Aさんが相談を終えて決めたことは3つです。
- 来月からNISAで毎月3万円の教育費積立をスタート(今すぐできる最小ステップ)
- 今年の夏のボーナスから50万円を繰上返済に充てる
- 来年、固定金利への借り換えを再度シミュレーションしてもらう
「全部一度に」ではなく、今月から1つだけ始める。これが変動金利時代を乗り越えるための最初の一歩です。
まとめ——「どっちか」ではなく「いつ、どっちか」
繰上返済と教育費積立、どちらが正解かという問いに、「どちらか一方」という答えはありません。
- 教育費には締め切りがある。今すぐ積み立てを始めることが最優先
- ボーナスは繰上返済へ。残高を減らすほど金利上昇の影響が小さくなる
- 50代後半、教育費の山が過ぎたら繰上返済にシフトする
- 「今月いくら積み立てれば間に合うか」を数字で把握することが第一歩
Aさんのような状況は、今の子育て世代にとって決して珍しくありません。大事なのは、漠然とした不安を「具体的な数字と行動」に変えることです。
「うちの場合はどうすれば?」と思ったら
繰上返済・教育費・老後資金のバランス、一緒に数字で整理します。
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