退職金の受け取り方は2種類+αある

会社から支払われる退職金の受け取り方は、主に以下の3パターンがあります。

受け取り方 概要 税制上の分類
一時金(一括受け取り) 退職時にまとめて受け取る 退職所得として分離課税
年金(分割受け取り) 退職後に毎月・毎年受け取る 雑所得(公的年金等)として総合課税
一時金+年金の組み合わせ 一部一括・一部年金形式 それぞれの税制が混在

どの受け取り方が有利かは退職金額・勤続年数・iDeCoの有無・退職後の収入・年金受給額によって変わります。「一般的にはどちらが有利」とは一概には言えませんが、多くのケースで一時金受け取りが税制上有利になりやすい理由を次のセクションで説明します。

一時金受け取り:退職所得控除の大きな優遇

一時金で退職金を受け取ると「退職所得」として扱われ、特別な税計算式が適用されます。ポイントは「退職所得控除」と「2分の1課税」の2つの優遇です。

退職所得控除額の計算式(2026年6月時点)

勤続年数 退職所得控除額
20年以下 40万円 × 勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年)

具体例:勤続35年・退職金2,500万円の場合

退職所得控除額 = 800万円 + 70万円 × (35 − 20) = 800万円 + 1,050万円 = 1,850万円

課税退職所得金額 =(2,500万円 − 1,850万円)× 1/2 = 325万円

課税対象はわずか325万円。実際の退職金2,500万円に対して所得税・住民税を合計しても数十万円程度になります(2026年6月時点の概算。最新は国税庁の公式サイトでご確認ください)。

退職所得控除の大きさ:勤続35年なら控除額は1,850万円。さらに2分の1課税まで組み合わせると、2,500万円の退職金でも実質的な税負担は他の所得と比べて非常に低くなります。この優遇制度を最大限活かすことが退職金計画の核心です。

年金受け取り:公的年金等控除が適用される

退職金を年金形式で受け取ると「雑所得(公的年金等)」として総合課税の対象になります。公的年金と合算して課税されるため、合計収入が多いほど税率が上がります。

公的年金等控除額の目安(65歳以上・2026年6月時点)

公的年金等の収入金額(年) 控除額
110万円以下 110万円(全額控除)
110万円超〜330万円未満 収入金額 × 25% + 27.5万円
330万円以上〜410万円未満 収入金額 × 15% + 68.5万円
410万円以上〜770万円未満 収入金額 × 5% + 145.5万円

退職金を年金形式で年200万円受け取り、公的年金が年180万円あると合計380万円の公的年金等となり、控除後も相応の所得税・住民税が発生します。また、住民税・健康保険料(後期高齢者医療保険含む)の算定基準に影響することもあります。最新の計算は国税庁・お住まいの自治体にご確認ください。

一時金vs年金、税金の違いを数字で比較

比較項目 一時金受け取り 年金受け取り
税制 退職所得控除+2分の1課税(優遇大) 公的年金等控除+総合課税
税負担の目安(退職金2,500万円・勤続35年) 数十万円程度 公的年金と合算で数百万円以上になる場合も
手元に来るタイミング 退職時にまとめて 毎月・毎年に分散
運用の自由度 高い(自分で運用できる) 低い(会社・運営機関が管理)
長生きリスクへの対応 自己管理が必要 終身型なら安心
健康保険料への影響 退職所得は影響なし(多くの場合) 翌年の健康保険料・住民税に影響する可能性

純粋な税負担だけを見れば、多くのケースで一時金受け取りの方が有利です。ただし、一時金で受け取った後に自分で適切に運用・管理できるかどうかも重要な判断軸です。「まとめて受け取ったら使い切ってしまいそう」という方は年金形式も選択肢になります。

ライフアセットオフィス FP
ライフアセットオフィス FP

相談の場で「退職金2,000万円を全額年金形式にしようと思っています」とおっしゃる方がいます。この場合、公的年金との合計で年300〜400万円超の年金収入が20年続くと、総合課税の累計税額は相当な額になります。税負担だけで見れば一時金の優遇は非常に大きいため、まずシミュレーションで比較することをお勧めします。

iDeCoとの「5年ルール」に要注意

iDeCo(個人型確定拠出年金)も一時金受け取りが可能で、退職所得控除が適用されます。ただし会社の退職金と同じ年に受け取ると、退職所得控除が重複適用されず、どちらかの優遇が制限される場合があります。

2022年改正後の「19年ルール」と「5年ルール」

重要:2022年の税制改正により、退職金とiDeCoの一時金受け取りの間隔によって退職所得控除の扱いが変わりました(複雑な規定のため、個別の状況は必ず税理士またはiDeCoの運営管理機関にご確認ください)。一般的な原則として、退職金とiDeCoの一時金受け取りを同じ年に重ねると、一方の控除が制限されるリスクがあります。受け取り時期の調整が節税につながる場合があります(2026年6月時点。最新は国税庁の公式サイトでご確認ください)。
受け取りパターン 注意点
退職金とiDeCoを同年に一時金受け取り 退職所得控除の調整が必要。専門家への確認必須
退職金を先に一時金受け取り→5年超後にiDeCoを一時金受け取り iDeCoにも退職所得控除がフルで使えるケースが多い
iDeCoを先に受け取り→19年超後に退職金を一時金受け取り 退職金にも退職所得控除がフルで使えるケースが多い

退職後の資産運用:退職金の置き場所問題

一時金で退職金を受け取った後、多くの方が「どこに置けばいいか分からない」と悩みます。よくある選択肢と特徴を整理します。

1

銀行の退職金専用定期預金

退職後3か月〜6か月限定で、通常より高い金利(1〜3%程度)が設定されていることが多い。ただし期間が短く、満期後の金利は通常水準に戻ります。「高利定期×投資信託セット」で勧誘される場合は、投資部分のコスト・リスクを必ず確認してください。

2

新NISAへの移行

年間投資枠(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)の範囲で毎年NISAに移していく方法。一度に1,800万円全額を入れることはできません。長期的に資産を維持・成長させたい方に向いています。投資には元本割れのリスクがある点に留意してください。

3

個人向け国債(変動10年)

元本保証・最低金利0.05%保証(2026年6月時点)の安全性の高い選択肢。1万円から購入可能で、1年後から中途換金も可能。金利上昇局面では変動型の方が有利。最新の金利は財務省の公式サイトをご確認ください。

退職金を最大限活かすための準備ステップ

退職の5〜10年前から退職金額・受け取り方の選択肢を確認

会社の退職金規程・確定拠出年金の残高・iDeCoの残高を確認します。受け取り方の選択は退職後では変更できない場合があります。

勤続年数と退職所得控除額を試算する

退職所得控除額を計算し、退職金がその範囲に収まるか確認します。控除内なら一時金受け取りで税負担がほぼゼロになる場合があります。

iDeCoとの受け取りタイミングを調整する

退職金とiDeCoを同年に一時金受け取りするとどうなるか、税理士やFPに相談して最適なタイミングを設計します。

退職後の生活費・年金収入・資産配分を合わせて設計

退職金は老後資金の一部です。年金受給額・生活費・NISAなどの金融資産と合わせた全体設計が重要です。

まとめ:退職金の受け取り方で「税金の差」は数百万円になり得る

✅ この記事のポイント

  • 退職金を一時金受け取りにすると「退職所得控除+2分の1課税」の大きな優遇が受けられる
  • 勤続35年なら控除額は1,850万円。2,500万円の退職金でも実質的な税負担は数十万円程度が目安
  • 年金受け取りは公的年金と合算・総合課税。合計収入が多いほど税率が上がる
  • iDeCoとの同年一時金受け取りは退職所得控除が制限される可能性がある。受け取りタイミングの調整が節税に直結
  • 一時金受け取り後の運用先(NISA・国債など)も事前に計画しておくことが重要

数値・制度情報は2026年6月時点のものです。退職金の税金計算は個人の状況により大きく異なります。詳細は国税庁の公式サイトまたは税理士・FPにご相談ください。

免責事項:本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入・取引を勧誘するものではありません。個々の状況に応じた判断はFP・税理士等の専門家にご相談ください。数値・制度情報は2026年6月時点のものです。